「母をたずねて」が大人にも愛される理由

朗読を聴いて涙を流す方はとても多いです。すっきりした顔をされて帰られるので、涙の力ってすごいなと思います。私は、朗読しながら泣いてしまうことがあります。作中人物の泣きたい気持ちと同化している時です。「母をたずねて」は私の作った朗読作品の中で好きな作品のひとつです。空気、色、子ども、母、距離、それらの対比が絶妙にバランスよく配置できて、クライマックスにむかって組み上げ、ストンと最後のセリフで物語が終わる。ドラマティックリーディングに向いているともいえるでしょう。

もともとイタリアの児童文学「クオレ」の中に挿入された物語で、日本では「母をたずねて」が一人歩きして人気となりました。「クオレ」はまごころという意味で、愛情深い子どもに育ってほしいという願いをこめて作られた物語ですが、やさしさというより「母に会いたい」という純粋な願いが、切り開いていく力になっているように思います。こころは、なにものにも代えがたい強さなのです。子どもを子どもとしてではなく、ひとりの人間として描ききっていることもこの物語が大人にも愛される理由なのではないでしょうか。それは、最後の医師の言葉に凝縮されているのです。

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この記事を書いた人

ナレーター/朗読家/司会/声とことばのトレーナー

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