私の使命 ワグナー・ナンドールの思いを伝えていく

誕生日に友人から一冊の本をプレゼントされた。友人は私に言った。「ひろ子さんに、朗読してほしいの」と。その声は、私の心の深い部分にしみ込んで、たしかに受けとったことを私自身が知った。へんな言い方だけれど、どこか客観的に私を見ている私が、ひとの思いというものをバトンを渡されたと感じたのだ。

「読んでほしい」ではなく「朗読してほしい」。それは、私の役割なのだ。そうなにかが告げて私に届いた。私は受けとった。しっかりと。「縁」という言葉がよく使われるけれど、「思い」は「言葉」になり、自然のなりゆきのように、そして、電撃的に。そのひとにしかわからない強烈な「思い」が、すべてが繋がった時達成されたのだ。

3月に、私は、ウクライナで起こっていることを、子どもたちにみせられない大人のおろかさを、私にできること「声」で伝えることをした。8時間、朗読し続けた。広島で被爆したひとりの女性の静かな生涯を描いた「広島の二人」という本である。日常が、ある日突然、戦車や爆撃機や銃や核兵器で破壊されていく。人間は、智の動物。学びは失敗を繰り返さないために。できるはずなのに。そんな思いからだった。集まったチャリティー募金は全額ウクライナ大使館に寄付した。

そして、その1週間後、この本を託されたのだった。

運命を感じた。今起こっていることと、100年前に起こったことは変わってない。

ワグナー・ナンドールという日本人は、息をひきとる最後に「私の叫びは、日本人に、届かなかった・・・」とハンガリー語でつぶやいた。その言葉を胸にとどめた妻のちよさんは、悲しみを乗り越え、精力的に行動した。

母国ハンガリー・ブダペストのゲレルトの丘に、ナンドールの「哲学の庭」が建立された。ちよさんは、ハンガリー国騎士十字功労勲章を受賞。昨年91歳の生涯を閉じ、ナンドールさんの待つ天国へ旅立った。

私は、栃木県益子でナンドールさんとちよさんが生きて時を刻んでいたことを知らなかった。だれよりも日本を愛し尊敬したハンガリー出身の日本人がいたことを知らなかった。昨年まで、ちよさんはそこにいたのに。悔やまれてならない。ちよさんの生の声を聞きたかった。

でも、私は受けとった。ナンドールさんとちよさんの思いを。

「ドナウの叫び」は、下村徹先生がこの本の主人公の奥さまちよさんから生前インタビューを重ねて書かれた長編伝記。私は、この原作を朗読文に書き上げた。下村先生は喜んで応援してくれた。

私は、「声」で伝えていく。

日本中に。世界中に。

それが私の使命。

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この記事を書いた人

ナレーター/朗読家/司会/声とことばのトレーナー

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