10月23日。ハンガリー革命の日。
この日に、「ワグナー・ナンドール物語」を朗読したことの意味をかみしめている。
今から66年前の1956年、度重なる戦争でソ連の衛星国となり、ハンガリー共産党政権の弾圧に反対する民衆が蜂起した。しかし、結果的にソ連軍により革命は失敗に終わり、多くの市民が犠牲となった。
この戦乱のまっただ中を生き抜き、彫刻と哲学で平和への意味、生きることを生涯伝え続けたワグナ・ーナンドールという日本人。彼の故郷ハンガリーのナジュバラドは、もうない。今、ルーマニアのオラディアとなっている。
彼は、日本の「武士道」を心から尊敬していた。強さの中にある信義、礼儀、いたわり。
死はいつも身近にあり、理不尽さの中を生き抜いてきた彼は、武器をもたないことで平和と生きることを実現するために、いきついた答えを「哲学の庭」で表現した。
亡命したスウェーデンから日本に渡り、75歳の生を全うした。
このワグナー・ナンドールという人を知った時、私は、朗読で語り継ごうと決めた。
それは、私の使命だとさとったから。
ことばを紡ぎ、言葉で伝える。
朗読文を一気に書き上げた。
それは4時間の大作で、そこから2時間の朗読文に前日まで筆を入れた。
そしてー
10月23日。
益子の「哲学の庭」で「ワグナー・ナンドール物語」を朗読した。
秋晴れのおだやかな日。立ち見になるほど多くの人が訪れた。
フルートの音色とともに、
ハンガリーの時。そして、スウェーデン。日本へ。
激動の75年
静かに、2時間の時が過ぎて
終わった時、涙とともにあたたかい拍手が秋の空にすいこまれていった。
拍手の渦の中で、私はナンドールさんにつぶやいた。
「あなたの平和への叫び、融和の祈りはみごとに届きましたよ」
千代さんの声と私の声が重なりあった。
私は泣かなかった。
リハーサルでは毎回泣いてたのに。
だって、千代さんが喜んでくれてるってわかったんだもの。
フルーティストの高橋詩織さん、会場におとずれ朗読の船に乗りナンドールさんと時を供にしたみなさん、スタッフのみなさん。
そして、原作「ドナウの叫び」をお書きになった下村先生。
ありがとうございました。
これほどまでに、全員が一体となって思いを共有することはないだろうな。
これははじまり。
これからも私は、語り続けていく。
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