秋の哲学の庭。何度来ても落ち着く。益子の丘にひっそりと、力強くその存在感を示す彫刻群。
キリスト、老子、アブラハム、エクナトン、釈迦を円形の台座に配し、世界を象徴する真ん中の球を見つめ、その外に、達磨、ガンジー、聖フランシス、聖徳太子、ハムラビ、ユスチニアヌスを配する。宗教の違いからくる争いが絶えない世界で、すべての宗教が他の宗教を否定することなく、許容し、手を取り合うことによってのみ、世界に平和が訪れる。
これがナンドールの出した答えだった。
「この哲学の庭が理解されるのは、おそらく22世紀になってからだろう。幸い、彫刻は、500年、1000年と持つからだいじょうぶだ」
千代にそう告げた。
この哲学の庭は、ナンドールの母国ハンガリーのゲレルトの丘にも2001年に建立された。日本では東京中野にもある。
益子の哲学の庭は、ナンドールが作った生涯最初で最後のアトリエの横に佇む。春夏秋冬の自然は移ろいゆくけれど彫刻は変わらずそこに立ち続ける。
この場所で朗読した23日、多くのひとが静かに耳を傾けてくれた。
一緒に、ナンドールの生きた時を駆け抜けた。ほんとうに、ひそやかに、でも、そこには「生きる」情熱があった。
朗読で、伝え続けたい。それは、私のメッセージではなく、物語が、ことばが、声が、ひとりひとりの心に届くもの。
私は、ただ朗読をするだけなのだ。
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