枕草子を読めば読むほど胸がいっぱいに

春はあけぼの  

はるはあけぼの。

はるはあ しあわせなよろこびに満ちた陽の音ではじまり、

けぼの しずかにゆうがにとじていく音

ようよう じょじょに

しろくなりゆく じょじょにひらき

やまぎわ ふくんだやわらかい陽の音に

すこしあかりて  ちいさな陽の音から

むらさきだちたる 唇をとじた高貴な音から奥の陽の音へ

くものほそくたなびきたる 情景とともにしまう陽の音

千年を超える時を経て、私たちの耳にここちよく継がれゆく音

枕草子は陽の物語。それは、音が物語っている。声に出して読めばよくわかる。くちずさむだけで明るい気分になる音で構成され、その情景描写はあざやかな色で彩られる。表現は細胞の感覚を刺激する。

清少納言の明るいさばさばした性格が枕草子を表しているとずっと信じてきた。

でも、深く読めば読むほど胸がいっぱいになるのだ。

このできあがった清少納言と藤原定子のものがたりを朗読するとき、きっとあふれる思いをおさえることができないだろう。なぜなら、わたしの声は媒介で、少納言の思いそのものだから。

少納言、あなたはうまくやり遂げた。

だから、私たちは時を超えて枕草子を読むことができたの。

語らないことで、書かないことで、あなたはやり遂げたんだから

にんまり笑ってたらうれしい。

だれよりも饒舌で、だれよりもエキセントリックで、だれよりも自慢シイシイなあなたは、

だれよりも繊細で、だれよりも情が深くて、だれよりも寡黙に、ピエロのようになって

豊かな感性を羽ばたかせながら、真実を織りなした。

桜の下で、あなたとあなたが生涯かけてお慕いした中宮定子さまを想う。

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この記事を書いた人

ナレーター/朗読家/司会/声とことばのトレーナー

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