『ほんとうにひどく風が吹いて、林はまるでほえるよう、あけがた近くの青ぐろいうすあかりが、障子や棚の上のちょうちん箱や、家じゅういっぱいでした。』風の又三郎 宮沢賢治より
賢治の世界は、自然の描写が感情と結びついている。自然が心を表現している。悲しいとか、さみしいとか、たのしいとか、うれしいとか直接的な感情のことばが少ない。
『すると胸がさらさらと波をたてるように思いました。けれどもまたじっとその鳴ってほえてうなって、かけて行く風をみていますと、今度は胸がどかどかとなってくるのでした。』風の又三郎 宮沢賢治より
心や自然の描写を音で表現することも、賢治の世界だ。その音が、賢治の作品そのものなのだ。
賢治は自然の中に生きて、自然のやさしさも強さもこわさも、生きる中で知っているから、情景の描写なのに、思いがあふれている。その思いに圧倒される。
風の又三郎。子どもの時の、子どもだからこその、あの不思議。夢のような現実のような、でも、たしかな時。
私は、朗読しながら、風を全身にうける。私がうけた風を音で、声で、うけとってくれたら、うれしいのです。
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