11月朗読会ー家族のサポート「待つ」それは信じること

初参加のSさん。25歳の時バイク事故で脳に損傷を受け、右半身と構音の障害が残ったそうです。この日おかあさんと共にやってきたSさんは笑顔がとてもチャーミングで楽しそうに話します。Sさんに18年前の事故のことを聞いてみました。Sさんは正確な日時を教えてくれ、意識が戻ってからのことを一生懸命伝えようとします。横からおかあさんが補足で説明してくれるのですが、どうしても補足に止まらずSさんの話をさらってしまいます。「今はおかあさんに聞いているのではなくSさんに聞いているので、おかあさんは少しだけ見守っててくださいね」とやんわり伝えました。

つきそってくるご家族の愛情と熱心さはには頭が下がります。子どものために失語について猛勉強し日記をつけ回復のためにありとあらゆる手を尽くす。そういった家族の姿をたくさん見てきました。だれよりも子どものことをわかっているから、本人が伝えようとする言葉を表出されるまで待てずに助け船を出してしまいます。でも、時にそれは回復のさまたげになってしまうこともあるんです。概念からの言葉の表出は神経回路の構築を促します。言葉が音声と結びついた時喜びはひとしおです。その喜びはひとつ新たな神経細胞の開通を意味します。ご家族もがまんのしどころです。自立へのステップは支えの輪を少しづつ遠巻きに広げていくことです。手取り足取りのサポートから「自分でやってごらんなさい」へ。決してつき話すのではありません。冷たい仕打ちでもありません。待つ。それは信じること。どうしても助けてほしい時には本人が「教えて」を伝える。そこで初めて教えてあげる。ここにコミュニケーションが生まれます。気持ちを伝える→受け取る→教える。日常会話のすべてがリハビリなのです。

Sさんに今困っていることを聞いてみました。右足の不自由さと言葉、そう答えるSさん。わたしは言いました。会話は今こうして通じてますよ。それはわたしがSさんが何を言おうとしているのか聞こうとしているからです。Sさんもわたしに伝えようと一生懸命言葉を絞り出していますね。一番大切なのでこの気持ちです。伝えたい気持ちがない人の言葉はたとえスラスラしゃべってもなにも残りません。たどたどしくてもゆっくりでもハートのある言葉はしっかり届くのです。

改めてSさんに聞きました。どうしてもっとはっきり話せるようになりたいのですか。Sさんはそこで、今就労訓練に通っていること、でもなかなかうまくいかないことを話してくれました。仕事がしたいのですかと尋ねると、目を大きく見開いて「そうそう!」とうなずきました。Sさんは仕事がしたい。だから、言葉がもっとはっきり話せるようになりたいんですね。では、その目標に向かってやっていきましょう。わたしはSさんに目標を書いてもらいました。

言葉のリハビリは、漠然と「ちゃんとしゃべるように」と思っているだけでは自分自身の成果がわかりにくく、まったくよくならないと過小評価をしてしまいがちです。なんのためにどうなりたいのか、それを自分自身に問いかけ自分で答えを導き出す=目標を明確にすることが大切です。

まったく言葉が出ない状況から発声できるまでに回復したSさん。音の表出から言葉の形成へ。ひとつづつ階段を上っています。Sさんがはっきり発音できないのは音に角がないためです。音の輪郭。それは次のステップにしました。まずは発声のからだ作りです。声を出す喜びを知ってもらいたい。Sさんの声はとてもまろやかで優しい。その声を堂々と発してもらいたい。仕事の現場をシチュエーションに練習。

・P音・顔筋運動

Sさんは理論を知りたいと言います。今やっていることが何の練習なのかどうやれば効果的なのか、それを説明し納得するとみるみる練習のコツをつかみました。「むずかしい〜」と言いながら懸命です。

今日は朗読まではいきませんでした。マンツーマンだったので少し疲れたかもしれませんね。ゆっくり休んでください。家で行う宿題はどれも自分でやれる回数を決めてもらいました。Sさん、目標にむかっていきましょう!

 

 

 

 

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この記事を書いた人

ナレーター/朗読家/司会/声とことばのトレーナー

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