初めて砂田さんに会った時、砂田さんはニコニコ笑って絵日記を見せてくれました。「これ、砂田さんが書いたんですか?」とたずねると、またまたニコニコ笑ってこっくりうなずきました。マス目いっぱいに大きく書かれたひとつひとつの文字には、砂田さんの思いがつまっていて、短い文章のむこうに情景がくっきり浮かびます。それは、力強いメッセージでした。
どれだけの年月を費やしてここまだたどり着いたんだろうと、胸がいっぱいになったことを覚えています。
それから、しばらくすると、砂田さんから、「絵本を朗読したいので、オンラインで教えてほしい」と連絡が来ました。
迷子になったことばを捜し出すことはとても時間がかかり、そのうち何を捜しているのかわからなくなってしまう失語症。
朗読だったら、ことばはそこにあり、そのむこうに映し出される映像と結びつけることができます。
そうだ!だったら、砂田さんが心に抱く思い、言いたくてもことばが迷子になって言えなかったことを童話にしてあげよう。
その童話を朗読することで、伝える喜びも感じられるにちがいありません。
私は、砂田さんから時間をかけてお話を聞きました。
そして、砂田さんがいっしょうけんめい捜し出したことばのひとひらひとひらを紡ぎました。
そうしてできあがったのが「おとうさんとおかあさんの絵日記」です。
砂田さんが初めて声に出して読んだ時、私は不覚にも泣いてしまいました。たどたどしいけれど、そんなこと問題じゃない。しっかり心に響いたのです。
レッスンを重ねて、砂田さんは、みるみる表現豊かになり、ついに、大勢のひとの前で朗読する願いを叶えました。
砂田さんと夫の和彦さんはいつも笑っています。
そんな二人に静かに寄り添い、カメラを回し続けたテレビせとうちの近藤ディレクター、松井カメラマン。
今回、このすばらしいドキュメンタリー番組に、ナレーションで参加させていただき心から感謝しています。この番組をとおして、失語症をひとりでも多くの方に知ってもらえたら、こんなうれしいことはありません。
TXNザ・ドキュメンタリー番組大賞候補作品「おかあさんとおとうさんの絵日記」
テレビせとうち 3月21日(月・祝日)午後3時54分〜
テレビ東京 3月27日(日)深夜3時40分〜
ぜひご覧ください。
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