若い失語症患者

彼は、個人コーチングに訪れた。
ご両親に伴われて、階段を下りてきた。
テーブルの向こうに3人がすわるので
おかあさまはどうぞわたしのとなりにいらしてくださいと声をかけた。
1対3はどうも堅苦しい。
家にいるような雰囲気でお話をしましょう。
初めて訪れる方は、そうでなくても緊張している。
そりゃそうだ。わたしという人間がどんな人間かもわからないのだから。
一生懸命パソコンで検索して、ぬまおって人間がこんなことやってる
一度会ってみたいと足を運んできてくれるのだ。
うれしい。そして、その思いに答えたい。
彼らは1時間半かけて来てくれた。
駅からはわたしの足で10分。
倍はかかったに違いない。
何線に乗って来たのですか?と彼に尋ねる。
へえ~、駅の乗り換えは1回なんですか?!
わたしは驚く。
今、私鉄がどんどんつながってるから埼玉まで1本で行けちゃうんですよね。
「そうそう!
なのに、おかあさんがついてくるんですよ」
おかあさん、心配なんですよね。
そんな話で盛り上がる。

18歳の時、脳出血で倒れた彼は
懸命のリハビリで、今、さまざまな集いに出席し就業の訓練をしている。
会話をしながら認知の情報を得る。
ノートに質問の答えを書いて文字との連携をはかる。
はっきりと大きな声で質問すると
ウィットに富んだ答えが帰ってくる。
思わずおなかを抱えて笑ってしまう。
音読の練習に週に一回通っているという。
漢字交じりの文を一行読んでもらう。
滑舌はあまいが、正しく発声。
すばらしい。
でも、まだ理解は不十分なことがあるとご両親は話す。

彼は今、何を望んでいるのか
ご両親は何を望んでいるのか
そのことが明確になった時、コーチングの目標ができる。
「生きていく」ために必要なこと
欠けていると感じているものを満たす手伝いをすることに
わたしは労をいとわない。
先を歩いていくご両親の心配を取り除いてあげたい。
彼の笑顔がずっと続くように。

*埼玉県若い失語症患者の集いが
3月24日に開催されるそうです。

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この記事を書いた人

ナレーター/朗読家/司会/声とことばのトレーナー

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