「脳梗塞・失語症から言葉を取り戻すまで」13〜 さまざまな不安から逃れるために

「点滴とれたんですね。よかったですね。調子はどうですか?」

言語聴覚士の先生は、いつも、ゆったりと構えながら、私の話に、ジッと耳を傾けてくれました。私は、点滴がとれたおかげで急に元気になったような気がすること、言葉の方はなかなかうまくいかないことを報告しました。

「どうしても漢字の前でつまずくんです。どうしてでしょう?」

失語症の苦しみを医学的に理解してくれている先生には素直に〝自分ができないこと〟を告白できました。すると先生は白い紙に何か書き始めました。

「沼尾さんの脳のダメージを受けた部分が、この左耳の上あたり。ここは、言葉をつかさどる言語野なんです。

そして、死んでしまった細胞はもう再生することはありません。そのかわり、まわりの細胞を活用して、忘れていた言葉を思い出したり、今まで無意識のうちに行ってきた言葉の使い方の記憶をよみがえらせたりするの。

沼尾さんの場合は、漢字の変換に少しタイムラグがあるんですね。時間がかかっても、生きている細胞を上手に使っていけばいいんですよ」

そう言って、「新聞記事の漢字にふりがなを振ってみるといいですよ」と提案してくれました。

骨折だって時間がたてばくっつくのに、一度死んだ脳細胞は二度と生き返らないという事実はかなりショックでした。

でも、脳梗塞による失語症のメカニズムをきちんと説明してもらえたのは嬉しく、自分の症状を自分自身で把握していると、不安もかなり薄らぎました。

言語療法室からの帰り道に思いきって新聞を買いに行くことにしました。小さな売店の奥の棚に並ぶ新聞を一部抜き取り、緊張しながらレジに向かいました。

病気になって以来、会話を交わしてきたのは、私の症状や状態を理解してくれている人達ばかり。でも、ここでは、私のことなど何も知らない、何の心構えもない相手との初めての会話です。

「これをお願いします」

「はい、一五〇円です」

「千円札でもいいですか?」

「大丈夫ですよ」

本当に何気ない日常会話です。私は普通にしゃべっているかしら。相手に通じているのかしら。おかしなことは言ってないかしら? 不安がよぎりました。

ドキドキしながらおつりをもらい、「ありがとうございました」と笑顔で言われた時、嬉しくて、ホッとして、心の中で、「やったーっ」とガッツポーズしました!

ニコニコしながら売店から出てきた私とすれ違った中年の女性が、不思議そうな顔で見つめたことを覚えています。

売店は玄関ホールとつながった広々とした総合待合室の一角にあり、老若男女さまざまな人が座っていました。

外来患者や白衣を着た病院関係者、付き添いの家族なども行き交い、入院病棟フロアよりも、すべてが気ぜわしい感じでしたが、ザワザワとした雰囲気が嫌ではありませんでした。

玄関ホールには案内カウンターがあり、その横にも一脚、長椅子がありました。

私は吸いよせられるように歩いて行って腰を下ろし、売店で買った新聞を読んでみようと思いつきました。

そして、一番後ろのページを広げて、目についた記事から声を出して読み始めました。

私の声は周囲の音にかき消されて、気にする人は誰もいませんでした。

病室は個室でしたが、ホテルではないから、お腹から声を出せば響きます。両隣からは、壁越しに苦しそうに喉を鳴らすおじいさんの声や、大きなイビキも聞こえていました。

でも、玄関そばのこの場所なら、何の気兼ねもいらなかったのです。

こうして別館の言語療法室からの帰りは、必ず本館の売店に寄って、玄関ホールの長椅子に座って音読をすることが私の日課となりました。

さらに、先生は、新聞にふりがなを振ることを提案してくれました。私の脳内コンピューターは故障しており、音変換を正確なものにするためには、ふりがなを振るのが一番らしい。

私はさっそく、実践してみることにしました。

高こう校こう球きゅう児じ達たちの暑あつい夏なつ。

こうして漢字につまずく心配がなくなりました。

ふりがなを振ると、「こども新聞」みたいになるけど、人目など、気にしていられません。意味が理解できなくても、とにかくふりがなを振り、ひたすら声に出して読みました。

すぐ疲れるので、あまり長くはできません。おまけに、一回目が比較的スムーズにできたからと言って、二回目もできるとは限りませんでした。

「さっきはできたのに」と落ち込むこともしばしば。やればやるほど〝ダメな自分〟を突きつけられました。

けれど、目の前の課題をただひたすらこなすことで、私はさまざまな不安から逃れようとしていました。

〈続く〉

 

タグ:   この投稿のパーマリンク

カテゴリー: 沼尾ひろ子 脳梗塞・失語症から現場復帰するまでのドキュメント |

好印象をもたれる話し方2 意識を変えよう!〜「好かれたいと思わない」

多くのハウツー本が、第一印象の重要性を説いています。もちろん、そのとおりで

す。生放送でも、マイクを向けた相手はインタビュアーに対する瞬時の印象で、この

人と話してもいい、あまり話したくないと判断します。

そう考えると、みなさん「第一印象で自分を好きになってもらいたい。どうしたら

それができるだろう」と思いますよね。

「自分をよく印象づけたい」

「自分を好きになってもらいたい」

「いいところをわかってもらいたい」

でも、まずはこの発想をやめてください。きれいさっぱり忘れてください。では、

いったいどうすればいいのでしょうか。

さあ、意識の改革です。

意識改革その1   相手を変えるのではなく、自分が変わる

あなたの意識を次のように変えてください。

 

「自分のいいところをわかってもらいたい」

「相手によく思われたい」「好かれたい」

「相手を変える」=「わかってもらう」のではなく、「自分を変える」

 

なぜ、そんなことを言うのだと思いますか?

みなさんに遠回りをしてほしくないからです。よりスピーディに、簡単に会話力・

コミュニケーション力を身につけていただきたいからです。

人の心を変えるのは並大抵のことではありません。だったら、まず自分が相手に好

かれる自分になればいいのです。

 

そこでみなさんに質問です。

もし自分だったら、どんな人に好印象をもちますか? どんな人の話をもっと聞き

たいなと思いますか? 思いつくものを10ずつ書いてみてください。

◉あなたは、どんな人に好印象をもちますか?

10

◉あなたは、どんな人の話をもっと聞きたいなと思いますか?

10

あなたが話してみたい人物像が、あなたのなりたい理想像であり、最も具体的な目

標です。

 

 

カテゴリー: 好印象をもたれる話し方, 話し方パーソナルトレーニング |

好印象をもたれる話し方1

人と話すことにコンプレックスをもっていたり、自信をもって話すことさえできれば、と切実に思っていたり、コミュニケーションが上手くとれないことで人間関係に困っていたり・・・。もっといい声だったらなあと、話すことに何か悩みをもっている方がお読みになっていることと思います。

会話力を身につけて接客やビジネスに役立てたい、上司や部下とコミュニケーションをとりたい、仕事の現場を円滑にしたい、営業力をアップさせたい、プレゼンテーションを成功させたい、婚活、就活に役立てたいなど、さまざまな目標をお持ちのことでしょう。

ということは、話し方のスキル、コミュニケーション力が仕事のうえでもプライベートでもとても重要だと、すでにわかってらっしゃいますよね。

そうなんです。信頼感のある声での会話力は、人間関係を築くうえですべての鍵を握ると言っても過言ではありません。

どんなにすばらしい提案で、的確なプレゼンテーションの中味だったとしても、また、その人がどんなに外見がダンディ、二枚目、美人だったとしても、この話し方嫌だな、こいつ大丈夫かな、この声不快なんだよね、ボソボソと何を言っているのかわからない、一本調子で聞いていて疲れる、この人とはできるだけ話したくない、と思われたらどうでしょう。あなたの価値は著しく低くなり、マイナスからのスタートとなります。

たとえ、結果的に契約が成立したとしても、ビジネスが成功したとしても、初対面で好印象をもたれるのと、長時間かかってようやく「この人できる人だったんだな」とわかってもらえるのとでは大違いです。貴重な時間の損失以外のなにものでもありません。

特に、接客は初対面での印象で、そのお店全体の印象を良くしたり悪くしたりします。今はSNSであっという間に情報が拡散して、利益にも影響するのは周知のことでしょう。

ビジネスの成功、人生の成功は、人の心を動かす声の力なくしてはありえません。

でも、誰にだって、苦手な人、苦手な取引先、不得手なシチュエーションがあります。そもそも話すことが苦手な人もいます。

そういった方にまずやっていただきたいこと、それは、「逆の発想」です。

苦手な人、苦手な取引先に、あなたの話を真剣に聞いてもらうことができさえすれば、もうこわいものなしです。

では、どうしたらファーストインプレッションであなたの話を聞いてみたいな、と思わせることができるでしょうか?

その答えが、「声の力=地声力」なのです。「きれいな声」ではありません。あなたの「地の声」です。

アナウンス部に入社したての頃、大活躍していた男性アナウンサーにアナウンスの神髄をうかがう機会がありました。その時、わたしは質問したのです。

「アナウンサーとして美しい声は、地声ですか? それとも歌を歌う時のような裏声ですか?」

大御所アナウンサーの方はこう言いました。

「あなたの声でしゃべればいいんです」

まるで禅問答のようで、その時の私はまったく理解できませんでした。  実は私は自分の声があまり好きではありませんでした。だから、アナウンサー としての「あなたの声」は美しくなければならない、美しい声とは普段自然に話して いる声よりも高い声、と自分なりに解釈し、それから毎日欠かすことなく本来の声とは違う、少し高い声=裏の声で発声練習を 30 分続けました。

夏の終わり頃、自分なりに鈴をころがすような透き通る声を身につけることはできたように思います。でも、録画したオンエアを観てみると、何でしょう、きれいな声で話してい るのに内容が伝わってこないのです。声に力がないのです。

私はさらに力強い裏声発声練習を重ねました。 その年の冬、風邪をひいたわけでもないのに声がかすれて、声にならない音も出てきました。耳鼻科に行って告げられたのは、声帯ポリープです。とにかく仕事にならないので、手術をし、1か月筆談生活を余儀なくされました。

その経験から、私は発声練習を180度転換しました。

本来もっている自分の声、一番自然 に出しやすい声、普段話す声、そう、「地声」でキレのある美しい日本語を話すこと ができるようになるための発声練習に変えたのです。

「地声」を武器に現在にいたるまで、おかげさまで絶えることなく第一線 で番組を担当させていただいています。

声帯は楽器のようなものです。大事にメンテナンスをし、その楽器がもっている最もよい音を奏でる方法で演奏すれば、聞いている人に感動を与えることができます。 「自分が本来もっている声」=「地声」を最高の方法で発することができれば、鬼に金棒です!

初対面の人とどれだけいい関係が築けるかで、遠回りをせずに、間違いなく悩みは 解決するし、目標としている仕事にも役立ち、プライベートでの人間関係も円滑に行 うことができます。

人から信頼を得られる声とはどういう声でしょう。どういう声でどういう話し方 をすれば、初対面で好感をもってもらえるのでしょうか。

私が 35 年かけて培った会話力・コミュニケーションスキルのうち 最も重要な基本となる「地声力」を身につけて、あなたの人生を切り開いていってください。

ではさっそく、すぐに実践できる、信頼のおける声をつくるレッスンを始めましょう。

 

 

カテゴリー: 好印象をもたれる話し方, 話し方パーソナルトレーニング |

できたことを数えよう!

「そのスィーツの映像は浮かんでいるのに」「どこのお店で売っているのかも知っているのに」「ほどよい甘さと上品な味わいを伝えたいのに」ティラミスという名前が出てこない。

「ほら、イタリアのデザートで、」「大ブームになって、」「茶色くて、」「やわらくって、」「プリンみたいだけど、ちょっと違うけど、」「甘くって、」と、浮かんでいるイメージと保持されてる言葉を紡いでいく。

すると、「ティラミスのこと?」「そうそう!それそれ!」。

ここで、「あ〜だめだわ、どうして言葉が出てこないんだろう・・・」と落ち込んでしまうひとと、「よかった〜!」と喜ぶひとに分かれます。

伝わったこと、それはコミュニケーションの成立です。

英会話の習得に似ていますね。知っているボキャブラリーを並べて伝えようとする作業。

伝わった時、お互いに笑顔になりますね。

成功の積み重ね。

「できたことを数える」

その習慣をつけると、あなたの人生は豊かになります。

 

 

 

 

 

カテゴリー: ソートフルコミュニケーション講座, 働き世代の失語症, 失語症とは, 失語症のある方のための言語ボイストレーニング, 失語症農園プロジェクト, 脳梗塞患者と失語症者の自立支援の会, 言語ボイストレーニング里山教室, 農ライフ |

叶谷ベースにようこそ!

大阪から叶谷ベースを訪れてくれたご夫妻。私の大切なお友達です。梶さんは、昨年大阪で失語症のある方の言語ボイストレーニング教室を企画してくださって、そのお人柄、できることを笑顔でしていこうという思いにすぐにファンになってそれからのご縁です🥰
こうして、遠路訪ねてくれたことが本当にうれしくて😊
1泊2日一緒に過ごす間、農園を散策したり、羽釜で炊いたご飯や菜花とタケノコのお味噌汁を自然の中で食べたり、里山でゆったり過ごしながらたくさん会話して、ゆったりというか、しゃべり続けた(?)アクティブな時間だったかも(*^^)v
翌日は、「疲れたらタイに行こう」実行委員会の上田さんご夫妻も同行して益子へ。森の中の静かなカフェやにぎやかな陶器市をご案内。2日目もやはりアクティブだった😁😁
ちょっと疲れさせちゃったかもしれません・・・。ごめんなさい!
梶さんのお仕事に役立つ数字との関わり方もお伝えすることができ、ストレスが少しでも解消されればうれしいです。
と、いろいろ書いたけど、私自身とても楽しい2日間でした‼️

私には梶さんを含めすばらしいスキルと魅力をもった友人達がいます。それは、宝物です。そんな大好きな素敵な人達と「できること」を楽しく😉😉😄🥰🥰
楽しいが一番ですね!

 




 

カテゴリー: ソートフルコミュニケーション講座, 働き世代の失語症, 失語症とは, 失語症のある方のための言語ボイストレーニング, 脳梗塞患者と失語症者の自立支援の会, 言語ボイストレーニング里山教室 |