音の残韻を逆手にとる!

「大阪からこのために来たんですか?」思わず声が高くなりました。人づてに聞いて参加を決め、高速バスで上京し、そのまま夜行バスで帰るのだといいます。彼を突き動かす根底にあるものを推し量るに胸に迫るものがありました。なんとしても、自分の置かれた状況を打破するんだという強い意志。それは理不尽さをまるごと飲み込み、負けるもんかと人生に立ち向かう姿そのものでした。私は、笑顔がとてもチャーミングで陽気な彼に、なんとしても来てよかったと思ってもらいたい、なにかを持ち帰ってもらいたい、そう思いました。そして、帰郷してから独自で練習できるように、彼の気にしている点と自覚していないけれど改善の手助けができる箇所をわかりやすく指摘していきました。

音読の練習がしたい、と目的は明確でした。視覚による文字認知と意味理解、発話までのタイムラグに違和感を感じているのです。これは私自身が一番苦労した失語の状態と似ています。なので、朗読はとても有効であることがわかりました。ちょうどクリスマスキャロスの最終項を予定していたので、彼のパーツを振り分け、まずは、いつもどおり自主練習をしてもらいました。他の参加者は要領を心得ているので、音読を始めるひともいれば、静かに黙読で意味理解を深めるひともいて、それぞれ自分のやりたい方法で練習しています。私からの指示はありません。初参加の彼の横に立ち、練習のしかたをみてみることにしました。すぐに声に出して音読を始めました。いいですね。まずは意味理解した上での表現よりも、音の確認です。タイムラグの縮小にこの練習方法は有効です。彼の気になっている点が見えてきました。たしかに、漢字で10秒ほどの間があきます。脳内情報処理にそれだけの時間が必要なのです。これは、漢字にルビをふる方法で対応することにしました。漢字は表意文字なので意味の原型が理解されやすいのです。発音までがうまくいかないため、発音記号の役割を担うひらがなでルビをふると、意味理解と発話/発音を動じに行うことができます。わたしは今でも絶対にとちりたくない生で原稿を読む時などは漢字にルビをふりますよ、と言うと、「それでいいんですね!」と驚きの表情。そして、うれしそうに「なるほど〜」と頷きました。今まで、それはダメな方法だと信じ、ずっと漢字と対戦していたそうです。また、カタカナに非常に苦戦することもわかりました。そもそもカタカナは外来語を表示するための表記で、それ自体は意味をなしません。どちらかといえば、ひらがなの役割に近い側面を持っています。発音記号の要素です。どのようにカタカナのタイムラグを縮めていったらいいか。わたしは、音にひっぱられる失語の状態を逆手にとり、音の記憶を植え付ける練習をさせることにしました。まず、ワンワードを繰り返し音読、そこに助詞を加えていきます。最後に文節で音読していきます。音の記憶の蓄積に、カタカナの読みがスムーズになってきました。顔がどんどん晴れていきました。

最後にみなさんに感想を聞きました。すると、口々に他のひとの上達をほめ、それにくらべて自分がどれだけ進歩がないかと嘆くのです。みなさん、回を重ねるごとに滑舌がよくなっているのですが、自分に厳しい真面目な方が多いのですね。

「来てよかったです」そういってセンターを後にした彼。わたしもうれしかったです。

また次回(^-^)/

・インタビュー自己紹介

・大声発声法 「好き」「好きです」

・母音5語音の口の形と運動

・朗読「クリスマスキャロル」

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この記事を書いた人

ナレーター/朗読家/司会/声とことばのトレーナー

コメント

コメント一覧 (1件)

  • コメントを記載頂きましてありがとうございました。
    先週の火曜日はトレーニングを頂きまして本当にありがとうございました。
    それから、一週間程になりますが、日々頂いたように、音読を中心に訓練を続けています。
    鏡を見ながらの練習を取り入れてやってますよ。
    少しずつですが、段々と一回目の音読で読める速度が速くなってきました。
    今後も頑張って行きます。

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