失語症のひとが失語症をどうやって周囲のひとに説明するか

台風の中、6名の方が参加。言語生活サポートセンターは荻窪駅から近いのですが、それでも吹きつける雨に濡れてしまうほど、今日は大変だったでしょうとみなさんに尋ねると「電車の中の傘が困りました」という声。片麻痺の方がつり革につかまるともう一方で傘を持つことができない。そこで、肩がけしたバッグの縁に傘をかけるのだそうです。ところが、混んでいると濡れた傘がとなりの人にあたってしまう。申し訳なく思ってもどうすることもできないもどかしさがある。特に女性が近くにいる時にはなるべく離れるようにしているということでした。傘を持ちながらのバスの乗り降りもハードルが高いという意見。雨の日の外出はみなさんご苦労されているのですね。わたしの経験を話しました。よくお店の入り口に傘を入れるビニールの袋がありますよね。出てくる時に捨てないで傘の柄に縛っておき、電車の乗る時にそのビニール袋に入れると周囲の人の衣服を濡らす心配がなくなりますよ、と。傘をビニール袋に入れるのもまた片麻痺の方にとっては一苦労なのですが、やってみる価値はあるかもしれません。

また、今日はフリートークの中で職場で失語症を理解してもらうことがとても難しいという意見がありました。どうしても、仕事に復帰してしゃべれるじゃないか、と思われてしまうと。本当は普通の速度で話しかけられると特に数字が概念としてとらえられないことや、自分の伝えたいことが全部言えていないこと、言葉が出てくることを途中であきらめてしまい、わかったふりをしてしまうこと。失語症をもっと知ってもらいたいのだけれど、説明することがとても難しくて無理なのだと残念そうな顔で話してくれました。失語症を知らない人が多すぎますよね、こんなにたくさんの失語症のひとがいるのに、という意見にみなさん大きく頷いていました。世の中に失語症を理解してもらえない理由は明白です。まさに今日の意見に集約されています。話す、聞く、読む、書く、これらの脳細胞が障害された失語症者が言葉で伝えることがどれほど難しいことか、しかも、蓄積された知識はそのままでその伝達回路の不具合によってコミュニケーションが思うようにとれないのですから、失語症がなんたるかを知らしめる術がないわけです。家族ですら難しいのです。社会的認知度がとてつもなく低いのはある意味当然のこととも言えます。それでもあきらめてしまったら永遠に失語症をわかってもらえません。失語症の方が就業することはとても重要なのです。社会と関わりをもってもらいたいのです。そして、失語症を知ってもらう努力をしていただきたい。難しいことを説明しようとしないでいいのです。たったひとつだけ。自分が一番困っていることを等身大の言葉で伝えるのです。「たとえば、長い会話は途中でわかんなくなっちゃうんだよ」とか。ポイントは全部ではなく、ひとつ。そのひとつを少しづつ積み重ねていきます。すると、ああ、こういうことやこういうことが苦手なんだな、と実生活の中で理解してもらえます。

それにしても、今日は、問題提起に対して意見を述べる力が備わってきていることを実感しました。すばらしいです。伝える力をもっともっと養っていきたい。みなさんの、脳の可能性を、信じています。

次回は10月4日です。

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この記事を書いた人

ナレーター/朗読家/司会/声とことばのトレーナー

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