物語を作る

用意したのは、お風呂イス、つめきり、すりゴマ、スプーンとナイフ、かゆみ止め、ざる。この中からひとつを選び物語を作る。前回やったのは言葉を3つ選んで文章を作るというものでした。前回と違うのは、たんに文章を作るのではなく、その言葉からイメージを膨らませてショートストーリーを作り上げる。つまり、言葉遊びではなく、創造する作業です。自分の抱いている感情を想像の世界で言葉にのせる、小説家カリキュラム。もうひとつ前回と違うこと。それは、ホワイトボードに書かれた文字を選んで口頭で文章を組み立てるのではなく、目にした物体を選んでストーリーを書いてもらったこと。書く作業が加わったのです。文章を文字化することは、時系列や情景描写などを整理しやすく、情報のかたまりを作り出すことができます。情報のかたまりをつないでいくと、ストーリーができあがります。初回なので、その他の決めごとはいっさいなしにし、自由課題にしました。A4の紙1枚に10分間。書き上がった文章をひとりずつ読んでもらいました。音読。しかも、自分で書いた文章ですから流れはひととおり頭に入っているはず。引き出す神経回路はまた別問題ですが、まっさらな文字情報解析よりは処理時間が短いので本人も楽なはずです。なので、スラスラ読むことができました。

ここで問題が発生しました。スラスラ読んだことで、聴いているひとは文字解析、理解、情景描写などの情報処理がまったく追いつかない。つまり、なにも頭に残らないのです。そこで、もう一度ゆっくり読んでもらいました。それでも、文章のひとくくりはなんとか記憶されるものの、次の情報が重なると前の情報が上書きされてしまうということがわかりました。もともと、音理解のみと文字・音理解では、情報処理のスピードが違います。2つの情報があると理解を補い合うことが出来るのに対し、ひとつの情報ルートではよほど注意深く神経をとがらせないと難解なのです。そこに必要なのは、聴いているひとの情報処理時間を加味したゆっくりのスピードと間です。そこで、句読点ごとに3秒の間をあけるよう指示しました。また、読むのではなく、伝えること。難しいですね。プロのナレーターのようです。「先生が読んでみてください」とリクエストされたので、ひとりの方の文章を音読してみました。「あ〜、わかりました!」。わたしが加味したのは非言語と側言語です。強弱、高低、表情、感情表現、それらを総動員すると、理解が深まります。

物語を作ること。文章を読むこと。音読を理解すること。難易度の高いこれらのカリキュラムは3名の少人数だからできました。とても興味深かったのは、3者3様の物語だったこと。現実的なお話。哲学的なお話。エッセイ風。みなさん、すばらしい物語でした。

次回は8月12日です。

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この記事を書いた人

ナレーター/朗読家/司会/声とことばのトレーナー

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