とっさの受け答えにリズム会話レッスン

「とっさの受け答えができないんです」。前回参加者の中から出た言葉に、そうなんですよね、と大きくうなずくばかり。もちろん、精神的な側面がないわけではありません。でも、脳内の情報処理過程として、聞いた言葉を脳が理解するまでのメカニズムを考えると深く理解できます。

音が意味をなすまでのプロセスを説明しましょう。まず、相手の言った言葉を「音」としてキャッチします。外耳・中耳・内耳ー鼓膜・耳小骨・蝸牛を通過する間に周波数帯域ごとの区分けをし、空気振動から神経の電気信号へ変換します。聴神経で音の性質、高低・大小・音色を分析し側頭葉へ送られます。この第一次聴覚野でより精密な音響分析を行います。さらに、周囲の脳の組織を総動員してより高次の分析を行います。これが、テンプレート・マッチングです。外界から生の音声が、すでに脳内に学習・記憶されている数の音韻のうちどれに相当するか判断する作業です。たとえば、日本語の「あ」の発声が行われると、まず、低い声・高い声・大きな声・小さな声・電話の声などさまざまな情報処理が行われますが、この段階では音響分析をしただけで意味理解に至っていません。テンプレートテンプレート・マッチングでは全体としての高低・大小・ひずみを修正して「日本語の『あ』だ!と判断するのです。

この音韻と意味の照合にタイムラグが生じることが、「とっさの受け答えができない」要因のひとつであることは容易に理解できると思います。相手がなにを言っているのか理解するまでに時間がかかるのです。そのことで、「このひと、わかっているのかしら?」「知的障害のあるひとなのかしら?」と思われたりすることの苦痛と、自分自身へのいらだち。わたしが大きくうなずくのは、その体験を共有できるからなのです。

なんとかして、自信をつけてもらいたい。

そこで、用意したカリキュラムがリズム会話レッスンです。何か聞かれてすぐに答えなきゃと思いあわててしまうことを回避するために、ひと呼吸おく訓練です。ゆっくりテンプレート・マッチングしてゆっくり回答することを自信をもって行う。自分のことは自分が一番よくわかっているのでできないことに目が向きがちですが、ゆっくり話すひとがとても信頼の話し方をするひとだと思われることも、わかってもらいたいと思います。

日本人のDNAに組み込まれているとわたしは思っているのですが、それが4拍子。盆踊りでも1,2,3,4チョチョンガチョンと手拍子を入れますね。なんだか自然にからだも動いて楽しい気分になります。1,2,3で手拍子、4で発声。これを徹底的にゲーム感覚で身につけていきます。まずは、名前を言ってみます。1,2,3、自分の名前、1,2,3,となりのひとの名前で呼びかけ、1,2,3,となりのひとが返事 1,2,3,となりのひとが自分の名前 1,2,3,となりのひとがそのとなりのひとの名前で呼びかけ

けっこう、緊張しながらも楽しそうです。途中、「あ〜、わかった!」と笑顔になったSさん。前回「とっさに受け答えができない」と悲しそうな顔をしていたので、わたしもうれしくなってしまいました。次はあいさつ。1,2,3,こんにちは 1,2,3どうも〜 1,2,3、ハロー、1,2,3 まいど〜 今度は質問です。最初、となりのひとに話しかけるサークル方式で行ってきましたが、そこで、「ランダムにやってみたい!」と提案がありました。つまり、まさにとっさに自分が呼びかけられるわけです。いいですね、やってみましょう!全員緊張度が増した表情、リズムを忘れてしまったり、質問自体がへんてこだったり、でも、とても楽しそうで、教室内に笑い声があふれました。一番大事なことを参加のみなさん自らつかみ取った瞬間でした。

一番大事なこと、それは会話を楽しむことです。

また次回(^-^)/

 

①準備運動

②顔の準備運動

③あいうえお体操

④腹式呼吸

⑤大声発声法

⑥サ行

⑦リズム自己紹介 〜とっさの受け答え

・基本レッスン

⑧朗読 「クリスマスキャロル」

 

*参考文献「脳が言葉を取り戻す時」(NHKブックス)

 

 

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この記事を書いた人

ナレーター/朗読家/司会/声とことばのトレーナー

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