失語症は、言葉の消失ではありません。言葉を脳に取り入れたり取り出したりすることが困難になった状態、つまり、神経回路のトラブルです。
言語訓練は言葉の再学習ではなく、この神経回路を直接刺激したり迂回路を設けて通じやすくすることがリハビリテーションの考え方になっています。
【脳内の言語野】
Ⅰ ウェルニッケ中枢(聴覚言語中枢)=言葉を聞いて理解する
Ⅱ ブローカ中枢(運動言語中枢)=言葉を表出する
Ⅲ 概念中枢=言葉の基・思考を司る
【言語経路】
Ⅰ 言葉を聞いて理解 音声 → ウエルニッケ中枢 → 概念中枢
Ⅱ 言語の表出 概念中枢 → ブローカ中枢 → 発話
(自分の発話を自分の耳で確かめる)
概念中枢 → ウェルニッケ中枢 → ブローカ中枢 → 発話
(オウム返しに復唱)
音声 → ウェルニッケ中枢 → ブローカ中枢 → 発話
【障害された神経回路】
1 ブローカ中枢の破壊=皮質性運動失語
・自発語、復唱が障害 ・言語理解の障害は軽度
2 ウェルニッケ中枢の破壊=皮質性感覚失語
・言葉の聞き取り、理解、復唱が障害 ・自発語は豊富だが言い誤りが多い(内容 が伝わりにくい)
3 ウェルニッケ中枢ーブローカ中枢の伝導路の破壊=伝導失語
・復唱が障害 ・自発語に誤り ・言葉の聞き取り良好
4 概念中枢→ブローカ中枢の切断=超皮質性運動失語
・自発語は減少 ・復唱は保たれる
5 ブローカ中枢ー発話の破壊=皮質下性運動失語
・自発語、復唱が障害 ・発語の誤り
・頭の中で思い浮かべたり理解する能力はある
6 ウェルニッケ中枢→概念中枢の切断 =超皮質性感覚失語
・意味の理解が障害 ・音としての言葉の認知は良好 ・復唱は保たれる
*言語以外の一般的知性は保たれるので痴呆とは区別する
7 音声→ウェルニッケ中枢の破壊 =皮質下性聴覚失語
・音としての言葉の認知、聴いて理解、復唱が障害
・頭の中の言語は障害されないので自発語は正しい
失語症は障害された神経回路の場所によってさまざまな失語症状が表れます。流暢に発話していても意味理解がまったくされていなかったり、発話がほとんどできなくても言語理解は問題なかったり、この後に説明する「読む・書く」も同様のことが言えます。言語理解と発話障害においては認知症と誤解されたり、発話の障害は運動経路から生じる構音障害と誤解されやすいと言われます。医師であっても誤診することが多いと報告されています。一般的に標準失語検査SLTA等によって失語の状態を確定してからリハビリに望むと、的確な言語訓練ができるとされています。
言語聴覚士の方との相性も実は当人、家族にとって大切な要素です。長期戦にタッグを組むパートナーと信頼関係をしっかり結んで的確なリハビリテーションを行っていくことが大切です。
いづれにしても、どんなタイプの失語症であっても少なからず精神的ダメージを伴うことに変わりありません。当人が失語症と理解した瞬間から自尊心は切り刻まれているわけですから、同じ目的をもった味方同士で傷つけ合うことのない言葉かけが必要です。くれぐれも幼児言葉で接することのないように。失語症者は知的レベルが低下したのではないのですから。
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