音楽療法について

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先日、音楽療法士の岡崎香奈先生によるセッションが行われました。かねてから失語症のリハビリテーションに音楽療法を取り入れることに大変関心があったので、わたしも参加させていただきました。60分のセッションは笑顔とともにあっという間に過ぎていきました。「笑顔」がなにより印象に残りました。リハビリは精神的にもつらいものです。できること、できないことを自分自身知る事から始まり、コミュニケーションの微弱なもどかしさの中でそれでも前を向いていかねばならない強さが必要です。時に自暴自棄になってまわりにあたってしまうこともあります。必死にふんばっている失語症者や家族のみなさんが笑いながら楽しくリハビリの望むことができたらこんなすばらしいものはありません。心の解放。そして、その心の解放がさらに脳へのなんらかの働きかけをするのではないでしょうか。日本語のイントネーションと音楽の持つメロディー、リズム、フレーズ。言葉を引き出すさまざまなキーがあるのです。改めて音楽療法の可能性を感じました。岡崎先生の取り組む音楽療法を紹介します。

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○音楽療法とは、受けたい方のニーズや目的に沿って、音・音楽を活用する治療法のことです。大きく分けて2つのアプローチがあります。

1.受動的音楽療法:聴取によるアプローチ

2.能動的音楽療法:音楽活動への参加によるアプローチ

主に・ 妊婦と胎児・発達障害児・者(自閉症、ダウン症、肢体不自由、視覚・聴覚障害、重複障害など)・不登校、引きこもりの児童・成人・ 精神障害者・ 高齢者(認知症患者含む)・ 脳卒中および交通事故等の後遺症を持つ人々・ 災害や虐待のトラウマを持つ人々・ 入院中(ICUを含む)および通院中の患者・ ホスピス・緩和ケア患者上記の対象者の家族・介護者・ 健康成人(セラピストの自己洞察、認知症予防)などに行います。

○脳卒中の後遺症患者に対する音楽の効用

音楽療法で使われる音・音楽は、既成曲、即興演奏、自然の音など、治療目的やニーズ(好み、年代、音楽史など)に沿って活用します。

①身体面のリハビリ/ケアとして

・歩行や運動機能訓練での身体の動きを円滑にする。

・即興音楽を使うことを通して、一人一人のリズム/テンポを調整できるようになる。

・体幹バランス、協応などの粗大運動を音楽でサポートする。

・握力、指先の動きなどの微細運動を音楽でサポートする。

・訓練動作の繰り返しからくる苦痛や劣等感を軽減する。

 

②心理面のリハビリ/ケアとして

・気分転換を促進しやる気をアップさせる。

・即興演奏を通してその時の自己表現における満足感、達成感を味わうことができる。

・フラストレーションの行き場を作ることができる。

・非言語的なコミュニケーションの媒体となる。

・特に集団療法で中途障害におけるネガティブな気持ちを表現し、仲間との共有体験を促 進できる。

 

③「言語リハビリにおける音楽中心的アプローチ」(Turry & Robbins, 2007)

・メロディー:単語とフレーズが持つ自然な抑揚を強調・強化する。

・リズム:調子とアクセントを明確にさせる。

・ハーモニー:伝えようとする言葉の意味合いに感情表現を与える。

・フレーズ構成:発話のフレーズに合わせて、開始・終止できるようになる。

・テンポと強弱のバリエーション:表現の可能性を拡げる

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音楽療法における主な活動内容と治療効果 (岡崎、2001を改訂)

    活動内容       効果
楽器活動・太鼓を叩く、ベルを鳴ら すなど様々な楽器を体験

・   即興的に弾く

・   合奏活動

・   作曲をする

・  音・音楽を使っての自己表現、感情表現  の促進・コミュニケーションの促進

・  集中力・注意力の向上

・  エネルギーの発散

・  身体と感情のコントロールの促進

・  身体機能の促進

・(グループセッションでの)集団スキル

・社会性の促進(順番を待つ、他者を意識するなど)歌唱活動・声をだす(ハミングも含  む)

・ 歌をうたう

・ 替え歌を作る

・ 歌を作る・ 声や言葉(歌詞)を使っての自己表現、感 情表現の促進・ 呼吸のバランスをとることによっての、  感情の安定・ 言語的な認知・表現力の促進

・ 替え歌を作る過程での、自己表現・感情  表現の促進身体活動・音楽に合わせて動く

・ 動きの模倣をする

・ ダンスをする

・ オブジェを使って動く      など・ 身体のバランスの促進・ 身体のコントロールの向上

・ 身体部位の認知

・ エネルギーの発散

・ 創造力・想像力の刺激

・ 統合運動の促進音楽と他芸術活動の組み合わせ・音楽を聴いて絵を描く

・ 音楽を聴きながらオブジェ を作る(粘土など)        など・ 様々な媒体を通しての自己表現、感情表現 の促進・創造力、想像力を刺激し、自己尊重をは  ぐくむ

・ sense of self(自分自身という感     覚)の確立

ことばを使った活動・カウンセリング的アプロ  ーチ

・   ラップなどを通して、自  分の感情表現をする

・   即興活動の後に、ことば  で体験を共有する        など・   言葉を通しての、自己表現、感情表現の  促進・音楽の歌詞を使って、自分の心理を代  弁する

・   言葉による、感情の確認・プロセシング

・   他者との共有

 

日本音楽療法学会理事・東北音楽療法推進プロジェク顧問 岡崎香奈 より

 

【参考文献】

・篠田知璋編、日野原重明、岡崎香奈他著:「新しい音楽療法-実践現場よりの提言-」音楽之友社 2001

・飯森眞喜雄・阪上正巳編・岡崎香奈他著:「芸術療法実践講座―音楽療法」岩崎学術出版社 2004

・ケネス・ブルシア著/酒井智華、岡崎香奈他訳:「音楽療法ケーススタディ 上巻」音楽之友社 2004

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この記事を書いた人

ナレーター/朗読家/司会/声とことばのトレーナー

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