ほんのちょっとのやさしさをポケットに。

先日、地下鉄に乗ろうと階段の手すりにつかまりながら階段をゆっくり上る女性の真正面から下りてくる男性がいました。そこは、階段の表示で「上る」側。つまり、女性は表示どおり正しい側を上っていました。下りてくる男性は動かず、困った女性は「ちょっと待ってください」と自分から横に移動しようとしました。でも、敏速には動けませんでした。すると、男性は、舌打ちしながら手すりから女性の手を引き離し、階段を下りていきました。女性はバランスを崩したものの大事には至りませんでした。その女性はバッグにヘルプマークをつけていて、私は、もしバランスを崩したらいつでも対応できるようにその女性のすぐうしろを上っていました。とっさのことに何の言葉がけもできなかった自分も情けなかったですが、この男性のギスギスした心をただただ悲しく思いました。外見からではわからない困難を抱えている方はたくさんいらっしゃいます。失語症もそのひとつ。失語症のある方は書いてある文字が意味とマッチしなかったり、言葉で何か言われても何を言われているのかよくわからなかったり、自分の思いをうまく言葉にすることができなかったりと、一歩外に出るとどうしたらいいかわからないことに直面します。たとえば、駅で行き先の表示を見てもよくわからない、買い物の時「○○円です」と言われても数字が浮かんでこない、尋ねたいのにうまく言葉が出てこない・・・。もし、ヘルプマークを付けている人を見かけたら、少し見守ってあげてほしいです。そして、困っているようでしたら、「なにかお手伝いしましょうか?」と声をかけてください。年末はそれでなくても気ぜわしいですから、少しのやさしさをほんのちょっとでいいのでポケットに忍ばせてくれたらうれしいです。

 

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この記事を書いた人

ナレーター/朗読家/司会/声とことばのトレーナー

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