プロとして戻って来い

脳のことはまだ解明されていない部分も多いといいます。

私は退院してから月に一度通院していたのですが、その時撮ったMRIを見て主治医は驚きました。左側頭葉にあった梗塞層が消えているというのです。人間の細胞の中でも脳細胞だけは一度死んでしまったら決して再生しないと言われています。ですから、MRIには一生白い大きな固まりが写っているはずなのに、それがないとはどういうことでしょう。私は脳梗塞ではなかったのでしょうか。ところが、出血した後の茶色い筋だけはしっかりと写っています。まちがいなく脳梗塞にともなう出血でした。病院内で発症した私は、非常に迅速に処置が施されました。たぶん、瀕死の状態だった脳細胞はすんでのところで息を吹き返したのだろうということでした。

その頃復帰に向けて前向きにリハビリに取り組んでいた私が、自信を取り戻すお墨付きをいただいたのは言うまでもありません。

番組を途中降板してからずっとお会いしていなかったSプロデューサーに挨拶に伺いました。そして、迷惑をかけたこと、前向きにリハビリに取り込んだこと、仕事は100%の状態で復帰する決意を懸命に話しました。

私の話を黙って聞いていたSプロデューサーはこう言いました。

 

「プロとして戻って来い」

私は耳を疑いました。名前も言うことができなかったナレーターの復帰を信じて待っていてくれたのです。

 

私はずっと思っていました。中途半端な状態では絶対現場復帰しない。たくさんの視聴者に向けてスタッフが一丸となって作り上げる番組です。私個人の思いだけで望むことはすべての人に失礼だと思っていましたし、私自身が打ちのめされる。だから、復帰する時はスタッフの「お願いします!」の声に完全な状態で答えることができる時と決めていました。

 

Sプロデューサーの言葉には「プロの沼尾に仕事を依頼するんだぞ」という力強い励ましが込められていました。あたたかさに溢れていました。プロとしての自信。仕事をする上で大事なことです。私は今、この言葉をお守りにしているのです。

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この記事を書いた人

ナレーター/朗読家/司会/声とことばのトレーナー

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