君の言葉で伝わった思い

今日もちょっとはにかみながら笑顔で入ってきた。
そんな彼が初めて、心の奥にすくう暗闇について話してくれた。

「普通に見えるから、みんな普通に話しかけてくるけど、
ば~っと話しかけられると、わかんなくなって
パニックみたいになって、
人と話すのがこわいんです。

高校までは友達がわかっててくれたからよかった。
大学でまったくオレのこと知らないひとばかりになって、
言ってることわかんなくて、
でも、わかんないこと知られるのがいやで、
変なやつだって思われるんじゃないかって
毎日いっぱいいっぱいで、
大学行くのがしんどくなって、
やめちゃったんです。

今は、何をするのもしんどい。
何かやらなきゃいけないと思うだけで
自分にはしんどい。
やりたいことも見つからない。
夜、ひとりの時間が苦しくて
眠れないです。
今日も、ここに来るって思うだけで
寝なきゃ寝なきゃって、
ちゃんと寝ないと、あの偏頭痛が起こって
調子悪くなるから。

毎日何もする気になれない。
しんどい」

昨年くも膜下出血で生死の境をさまよい、現在失語の後遺症が残るものの
先月職場への復帰を遂げたEさんが、話し始めた。

「ぼくはもともと営業職で、
ひとと話さなきゃいけない仕事で
今も、言葉がうまく出てこなかったり
理解するまで時間がかかったりするんですよ。
でも、そんな自分を知ってもらった方が自分も楽だし
まわりの不安もなくなるんじゃないかって思って、
できるだけ職場の違う部署のひととも話すようにしてるんです。

今はお客さんとも積極的に話しますよ。
気づいたんですよ。自分が思うほど、ひとはそんなに気にしてないって。
ほら、普通のひとだって、言ってること忘れちゃったり
とんちんかんなこと言って笑われたりするでしょ。
だから、自分の話し方が変だってぼくはかまわないって思ったんです。

踏み出してみなきゃね、わからないですよ。
最初勇気がいるけど、やってみなきゃ。
いろいろやってダメだったらやめればいい。
また、見つければいい。
自分で決めなきゃだめですよ」

わたしのところに来て1年以上になるSさん。

「わたしは仕事がしたいです。
でも、わたしのできる仕事なんて
きっとないです。
まわりのひとに迷惑かけるだろうし、
いっきに話しかけられるとほんとにわからないし、
そんなわたしが仕事なんて無理ですよね」

失語症のひとがどれだけ心の痛手を負うか。
ひととのコミュニケーションがとれないことが何を意味するか。
書く
話す
伝えたい術をすべてなくしてしまったら
それは、社会からの拒絶。
生きてる世界で深淵の孤独。

わかる。
わかるよ。
立って、息をしていることで精一杯だってこと。
わかるかな。
君はひとりじゃない。
わかりあえる仲間がいるんだよ。

ひとは言葉によって、生きる意味を見いだす。
心が通い合い、愛が生まれる

だから、
勇気の一歩は君が踏み出すんだよ。
笑い飛ばす技を身につけて。

踏み出して見える風景は
きっと輝いてる。
どんより曇りの日もあるだろうね。
でも、そのすべてをひっくるめて
それが君の人生なんだよ。

ほんとの、弱弱な自分をさらけ出してくれて
ありがとう。
今日、君の言葉で伝わったんだよ。
心でつながった一日をわたしは忘れない。

「寿限無寿限無」で
思いっきり声を出して
おつかれさま。

また来月!

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この記事を書いた人

ナレーター/朗読家/司会/声とことばのトレーナー

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