耳からの認識・言葉の上書き

沼尾ひろ子JOURNAL

「話しかけられるのがイヤで、目を合わさないようにしてるんです」

Yさん、Mさん二人に共通しているのは、

耳からの認識がうまくいかないというものだった。

「同じですっ!」

ちょっとうれしそうな表情。

失語症の方の孤独感は失語症同士でないとわからない。

見た目は健康な人そのものなので

普通に道を尋ねられたり、

時にはスーパーで買い物中に、おばあちゃんに

「これ、なんて書いてあるんだい?」

なんて声をかけられたり。

何か尋ねられているのはわかる。

でも、何を聞かれているのかとっさにはわからない。

そして、相手の方の言っていることに全神経を集中し

なんとか話かけられた内容は理解したものの、

答えが言葉にならない。

「え~っと、あの・・・」

相手の不思議そうな顔。

なんか変なひとだな

と思われた!

とたんにドギマギし、さらに不審な人間になってしまう。

「そう思われることが、本当にイヤなんです」

21歳のYさん。

「わかります。わたしも犬の散歩の途中で、ニコニコしながら声をかけてくるひとに
なんて言っていいのかわからなくて、申し訳なくて・・・」

とMさん。

二人とも、文字の認識は比較的うまくいくのだという。
目から入ってくる情報はタイムラグこそあるものの、
記憶が脳にとどまってくれる。
でも、音は、音としてサラサラと流れていってしまい、
意味をもたないのだという。

さらに、二人を苦しめるのが 錯誤。

「思ってもない言葉が出ちゃうんです」

画像のイメージは脳の中で形成され、言葉の情報もインプットされている。
しかし、声になる時
一音が抜けてしまったり、イメージのカテゴリが同じ別の名称を言ってしまったりする。

わたしも、トマトをゆびさして、きゅうりと言ってしまい
自分でびっくりしたことがある。

トマトってわかっているのにである。

失語症の症状のひとつ「錯誤」と知るまでは

「わたし、ばかになっちゃった」

と衝撃と落胆とない交ぜだった。

わかります。Yさんの気持ち。

相手にどう思われたか、気にしますよ。

でもね、関係ない!

あなたが変なこと言おうが、

うまく言葉が出なかろうが、

相手に迷惑かけているわけじゃない。

それで、相手の人生が変わるわけじゃない。

関係ないんです。

失語症のリハビリは言葉の上書きです。

経験を重ねていくこと。

何度でも忘れてしまった言葉や言い方を上書きしていく。

やらなきゃ、言葉は失われたままです。

目を合わさずに、殻に閉じこもったままだったら

自分の人生の扉を自分で塞いでしまいます。

あなたの人生はあなたのもので、

他のだれのものでもない。

だから、勇気をもってほしい。

どう思われようが関係ない!ってね。

「簡単に言わないでくれよ」

そう思ってるでしょう?

そうだよね。

わたしだって、20代の頃、ひとめを気にしたものね。

それもわかってて、それでも言います!

開き直れ!

しょうがないよ、失語症なんだから。

なりたくてなったわけじゃない。

でも、なってしまったんだ。

そこを認める。

認めてスタートする。

あなたの人生、だれも責任とってくれない。

そんな自分の人生は自分で責任とるしかない。

とどまるか、動き出すか。

自分次第。

今日、Yさんに会えて本当にうれしかった。

一歩踏み出したね。

言い訳しちゃダメだよ。

できない言い訳なんてだれでもできる。

自分の人生はだれかに決めてもらうんじゃない。

自分で決めるんだよ。

まず、ひとと話す自信をつけよう。

自信をもって名前を言おう。

いい声です。

はっきりした発音です。

来月、耳からのカリキュラムを

用意しますね!

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この記事を書いた人

ナレーター/朗読家/司会/声とことばのトレーナー

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